すみだ区報2021年1月11日号

特集

友好都市との紙面交換企画
やがて来る すみだと小布施の交流を待ち望んで

栗農家 小林茂久さん

町内でも数少ない栗の専業農家。東京都出身で、以前は金融機関に勤めていたが、祖父が営んでいた農家を継ぐため、10年前に小布施町へ。栗の品質が認められ、一昨年(おととし)3月に続き、昨年の秋にも、伊勢神宮の外宮奉納に選ばれる。

栗って面白い

「栗と北斎と花のまち」と、小布施町のキャッチフレーズにもなっている栗。栗農家を継ごうと思ったきっかけを尋ねると、「栗は、ほかの作物と比べて手がかからないと聞いていて、正直少し甘く見ていたんです。でも、実際はそんなことはなくて。」と当時の本音を教えてくれた小林さん。「私が小布施に来たとき、祖父はすでに高齢で畑に出られなかったため、技術的な部分は教わることができず、ゼロからのスタート。勉強会に参加したり、町内の栗農家さんに教わったり、県外の栗園にも赴いたりして少しずつ技術を蓄積してきました。栗はほかの作物に比べて、日光を欲しがるため、いかに実のなる枝を日光の当たる場所に置いてあげるかというのが1つのポイント。そのため、剪定(せんてい)作業が肝で、1本1本枝の配置を考えながら行います。」

これまでを振り返り、「もちろん初めは苦労もたくさんありましたが、学んでいくのはとても楽しかったです。栗って面白い作物だなあ、と。例えば、りんごなどのほかの作物は生で食べることが多いですが、栗はそうではなく、食べ方も含めて学ぶ余地があるんです。前職で全く違う畑にいた経験や視点を()かして、これからも栗を色々な角度から勉強していきたいと思います。」と小林さんは熱く語ります。

台風被害を乗り越えて

一昨年10月に日本列島を襲った台風第19号。小布施町でも、増水した千曲川の水が堤防を越え、住宅や田畑が浸水しました。小林さんご自身は、家族とともに避難して無事でしたが、ご自宅と栗畑が浸水被害を受けました。「家の母屋が床上1m以上の浸水で、大規模半壊の認定を受けました。農器具や栗を保管していた大型冷蔵庫は全て駄目になり、畑の大半も水に()かりました。」と被害の様子を話してくれました。「行政をはじめ、周りの方々に本当に助けられましたね。所属している小布施町商工会の仲間や、日頃から付き合いのある栗菓子屋さんの方々などが連日家に来て、泥だらけになりながら畳を運び出してくれるなど、手伝ってくれました。」一時、仮住まいをしていた小林さんですが、現在はご自宅の修繕が済み、元の住居に戻っています。幸いにも、畑への土砂の堆積がそこまでひどくなかったため、昨シーズンの栗の収穫も無事終えることができたと言います。「1年で家に戻って来られて、栗も無事収穫できて、これは本当に皆さんのおかげです。感謝の一言に尽きますね。一昨年は、台風で栗を保管していた冷蔵庫が水没してしまったため、一般の方には栗を届けることができず、非常に悔しい思いをしました。皆さんのおかげで、昨年はたくさんの方に栗を届けることができて、喜びもひとしおでした。」と、再起を果たすまでの想いを聞かせてくれました。

小布施から栗を元気に

小林さんによると、栗はかつてより消費量が落ち、〝栗離れ〞が進んでいると言います。そんな現状を冷静に見つめつつ、「皆さんにとって、栗がもっと身近なものになるよう、焼き栗や蒸し栗など提供方法を工夫して、小布施から、栗の消費量を伸ばしていければ。」と語ります。また、東京から来た小林さんを受け入れてくれた小布施町への感謝の気持ちとともに「小布施という土地で、一体となって栗を盛り上げ、それによって町もさらに元気になれば。」と今後の展望を話します。

昨年は新型コロナウイルス感染症の影響を受け、様々な物産展が軒並み中止に。「墨田区の皆さんをはじめとした消費者の方々に、直接、栗をお届けできる日が来るのを切に願っています。」と小林さんは想いを伝えてくれました。

丁寧に剪定された木々が並ぶ栗畑。剪定は、収穫量を大きく左右するとりわけ大切な作業とのこと。
いがから顔をのぞかせる見事な栗。
栗は実は繊細な作物で、常温で2・3日放置するだけで2割くらいが腐ってしまうため、収穫後も細心の注意を払って扱う。栗を選別する選果は3回にわたって行い、場合によっては、虫食いがないか、栗一つひとつをルーペで確認することも。