すみだ区報2021年3月11日号

特集

光の先へ 持続可能なすみだの未来

山口産業株式会社(東墨田3-11-10

頂いた命の皮を大切に使い切るために人と自然と環境にやさしい革づくりを広めていきたい。

山口明宏さん(代表取締役社長)

親子の夢

1938年に東墨田で創業した山口産業株式会社。1990年頃、〝人と自然と環境にやさしいものづくりを〞と試行錯誤の上、〝ラセッテーなめし製法〞を生み出しました。植物タンニンを使用して皮をなめすこの製法は、重金属系のクロムなめし剤と比較すると、自然や人体に有害な物質が排出されるリスクを最小限にとどめることができます。社長の山口明宏さんは、「あのとき先代の父と真剣に考えた結果が今、様々な形につながっています。」と振り返ります。

やさしい革

山口さんは、環境にやさしい最後の1枚までこのラセッテーなめし製法を世界に広め、動物の命を最後まで使い切る精神を次世代へとつなげていくため、〝一般社団法人やさしい革〞を立ち上げ、世界が推進する SDGs(持続可能な開発目標)への取組を通して環境保護と皮革産業の持続化をめざしています。

この理念の下、ラセッテーなめし製法のメリットを活用して様々なプロジェクトを展開しています。例えば、害獣対策で駆除された鹿や(いのしし)の皮を地域の活性化につなげる〝MATAGI(マタギ)プロジェクト〞や、モンゴル国の皮革産業の技術革新とレザーブランド化を推進する〝MONY(モニー)プロジェクト〞。また、豚にとってストレスの少ない飼育環境の普及をめざす〝ハッピーピッグ・プロジェクト〞も展開しています。

やさしさは世界へ

門外不出のラセッテーなめし製法を海外へ無償で提供することには、周囲からの反対の声も多かったそうです。「特に先代である父は大反対でしたね。〝この製法は、うちの生命線なのに〞と。しかし、弊社は現在、私と妻を含めて4人。生産量の多くない中、技術を守っているだけでは発展性はありません。外に出していったほうが活路は開けるはずだし、海外の土壌汚染や健康被害の改善にもつなげられる。」と山口さんは強調します。

技術を提供する最初の国の選択には慎重でした。「モンゴルは牧畜が盛んで、皮革産業も発達しています。また、力士が活躍するなど、日本と親和性も高い。単なる技術支援で終わらず、今度はモンゴルから別の国へ、やさしい革づくりが伝わっていくようにしたいです。」と力強く語ります。

最後の1枚まで

新型コロナウイルス感染症の影響で売上げは落ち込み、モンゴルに渡航できずプロジェクトも延期。「この機会に、改めて地球人として次世代に未来をどうつなぐかを見直し、年始には今後10年の予定を立てました。SDGsの達成期限が2030年、そのときまでに何をすべきか考えると、取捨選択が必要でした。まずは自社の生産を守る。そして新しいラボと生産拠点を作り、海外から研修生を受け入れる。さらには〝やさしい革〞の3つのプロジェクトの推進。これを10年やろう、と。これ以上のことはもうやりません。私は最後の1枚まで皮をなめそうと思っています。」と真剣な表情で語る山口さんは、自社を含む皮革産業の持続可能な未来を見つめています。