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すみだ区報(墨田区のお知らせ「すみだ」) 2019年7月11日号

 「木工のまち 鹿沼」を代表する鹿沼組子。日光東照宮造営の際に全国から集まった木工職人がこの地に技術を伝えたのが始まりと言われています。鹿沼組子は釘を一切使いません。職人の手で、鹿沼の特産「麻の葉」や吉祥文様の「亀甲」などの模様を一つ一つ組んでいきます。それは木の性質を知り尽くしているからこそなせる技。今回は、鹿沼組子の第一人者、吉原 幸二さんにお話をお聞きしました。

吉原木芸代表取締役 吉原 幸二さん
 鹿沼組子の第一人者として、鹿沼市仁神堂町で吉原木芸を経営。「鹿沼の名匠」および栃木県伝統工芸士に認定されています。

 「何か手に職を付けたい」と思っていたころ、鹿沼組子と出会った吉原さん。19歳から鹿沼市玉田町にある星野木芸で組子の技を学び、吉原木芸を立ち上げます。吉原さんは当時を振り返り、語ります。「昔は市内に組子職人が多くいました。組子というのは、寺や神社、家屋など建築物の様々なところに入っているものでしたから。」現在は、和風建築の減少に伴い、市内で鹿沼組子を手掛ける職人はごくわずか。しかし、最近では洋風建築にも取り入れられ、有名ホテルや飲食店など全国からひっきりなしに注文が入り、再び人気を博しています。
 鹿沼市は5月、市花「さつき」の盆栽と鹿沼組子の(つい)(たて)をローマ法王に贈呈しました。このとき贈呈した衝立は吉原さんが制作したものです。「この話が来たときは本当にびっくりしました。こだわりはやはり、地元である鹿沼のスギを使い、模様も鹿沼にゆかりのある“麻の葉”を入れたことです。」

 鹿沼市は麻の名産地としても知られていますが、「麻の葉」は縁起物として組子の模様にも多用されています。吉原さんは、この組子の模様について考えない日はないと言います。「現在、模様は200以上あると思います。さらに日々、新しい模様が生まれている。私の場合は、歩いているときに見つけたものやテレビを見て気づいたものなど、見るものすべてが新しい模様のモチーフになるんです。」

 組子の作品は、仕上がるまで何か月もかかります。吉原さんは、木を選び、管理するのも重要な工程の一つだと言います。「木はすぐに材料として使えるわけではないんです。半年から1年は寝かせておかなければならない。完全に乾燥した木を使わないと、後で作品に隙ができてガタガタしてしまいますからね。」
 吉原さんが組子に使う木は様々。「鹿沼のスギ、木曽のヒノキをよく使っています。作品の中で色を変える場合は、複数の種類の木材を組み合わせるんですよ。塗料は使いません。」特に、鹿沼のスギを使う理由を吉原さんはこう話します。「鹿沼のスギは見た目がものすごく目にやさしい。触ってみても軽くて柔らかく、温かみがあるのに、強度も兼ね備えている。鹿沼高校の正門の塀に鹿沼のスギを使い、組子の技法を取り入れているのを知っていますか。見た目にも美しいし、耐震強度もきちんと兼ね備えているんですよ。」

 吉原さんの奥様、そして秀美さん、直幸さん、友也さんの3人の息子さんも鹿沼組子の職人です。「私1人じゃここまで続けてこられなかったですよ。うれしいことに、息子たちも3人とも市の“鹿沼の名匠”に認定されてね。家族でぶつかり合いながらもいいものを作ってこられました。そして家族だけでなく、周りの皆さんのお力添えもあったこと、本当にありがたく思ってます。」と吉原さんは微笑(ほほえ)みます。

 吉原さんは常に新しい作品に挑戦し続けています。最近では、平面ではなく凹凸のある立体的な組子を制作しています。制作中の作品を少しだけ見せてくれました(こちら)。「たったこれだけ作るのに1週間かかってしまった。これは、"何年かかってもいいから、作ってほしい"と頼まれているものなので、完成させなければなりません。」と熱く語る吉原さんの挑戦はこれからも続きます。

ローマ法王に贈呈した衝立

お湯にしばらく漬けておき、柔らかくなったパーツを押し当てて“そり”を作る

お湯に漬けて“そり”を作ったパーツを地組にはめ込む

地組と組み込まれたパーツの組み合わせ次第で無数の模様ができる

栃木県立鹿沼高等学校の正門の塀

一家で鹿沼組子を制作する吉原木芸の皆さん

衝立「孔雀」は、試行錯誤を繰り返して生み出された吉原さんの自信作

現在制作中の組子は立体的なもので、非常に難しいという

このページは広報広聴担当が担当しています。