このページの先頭です
このページの本文へ移動
  1. 現在のページ
  2. トップページ
  3. すみだ区報
  4. 2021年3月11日号
本文ここから

すみだ区報(墨田区のお知らせ「すみだ」) 2021年3月11日号

 新型コロナウイルス感染症の流行により、誰もが苦境に立たされている今。明るい未来を信じ、進み続ける会社や、新たな取組を始めた会社、こんなときでも地域のために変わらずにあり続ける個店等をご紹介します。
[問合せ]

  • 産業振興課産業振興担当 電話:03-5608-6186
  • 経営支援課経営支援担当 電話:03-5608-6185

備考1:取材は新型コロナウイルス感染症対策を行った上で、短時間で実施しました。

山口 明宏さん(代表取締役社長)
山口産業 株式会社
(東墨田三丁目11番10号)

 1938年に東墨田で創業した山口産業株式会社。1990年頃、“人と自然と環境にやさしいものづくりを”と試行錯誤の上、“ラセッテーなめし製法”を生み出しました。植物タンニンを使用して皮をなめすこの製法は、重金属系のクロムなめし剤と比較すると、自然や人体に有害な物質が排出されるリスクを最小限にとどめることができます。社長の山口 明宏さんは、「あのとき先代の父と真剣に考えた結果が今、様々な形につながっています。」と振り返ります。

 山口さんは、環境にやさしいこのラセッテーなめし製法を世界に広め、動物の命を最後まで使い切る精神を次世代へとつなげていくため、“一般社団法人 やさしい革”を立ち上げ、世界が推進するSDGs(持続可能な開発目標)への取組を通して環境保護と皮革産業の持続化をめざしています。
 この理念の下、ラセッテーなめし製法のメリットを活用して様々なプロジェクトを展開しています。例えば、害獣対策で駆除された鹿や(いのしし)の皮を地域の活性化につなげる“MATAGI(マタギ)プロジェクト”や、モンゴル国の皮革産業の技術革新とレザーブランド化を推進する“MONY(モニー)プロジェクト”。また、豚にとってストレスの少ない飼育環境の普及をめざす“ハッピーピッグ・プロジェクト”も展開しています。

 門外不出のラセッテーなめし製法を海外へ無償で提供することには、周囲からの反対の声も多かったそうです。「特に先代である父は大反対でしたね。“この製法は、うちの生命線なのに”と。しかし、弊社は現在、私と妻を含めて4人。生産量の多くない中、技術を守っているだけでは発展性はありません。外に出していったほうが活路は開けるはずだし、海外の土壌汚染や健康被害の改善にもつなげられる。」と山口さんは強調します。
 技術を提供する最初の国の選択には慎重でした。「モンゴルは牧畜が盛んで、皮革産業も発達しています。また、力士が活躍するなど、日本と親和性も高い。単なる技術支援で終わらず、今度はモンゴルから別の国へ、やさしい革づくりが伝わっていくようにしたいです。」と力強く語ります。

 新型コロナウイルス感染症の影響で売上げは落ち込み、モンゴルに渡航できずプロジェクトも延期。「この機会に、改めて地球人として次世代に未来をどうつなぐかを見直し、年始には今後10年の予定を立てました。SDGsの達成期限が2030年、そのときまでに何をすべきか考えると、取捨選択が必要でした。まずは自社の生産を守る。そして新しいラボと生産拠点を作り、海外から研修生を受け入れる。さらには“やさしい革”の3つのプロジェクトの推進。これを10年やろう、と。これ以上のことはもうやりません。私は最後の1枚まで皮をなめそうと思っています。」と真剣な表情で語る山口さんは、自社を含む皮革産業の持続可能な未来を見つめています。

田中稔郎さん(代表取締役)
株式会社 グリッドフレーム
墨田工場(亀沢四丁目16番5号)

 亀沢四丁目に工場を構える株式会社 グリッドフレームは、空間設計から施工までを一貫して手掛けています。昨年、製品ではない想定“外”の素材から構“築”する、という意味を持つ、SOTOCHIKUをスタートさせました。その仕組みは、まず、取り壊す前の建物から一部を建築素材として持ち主が寄付し、グリッドフレームがつくる新しい空間に使用します。すると、その売上の一部が同社が指定するNPO法人に寄付され、持ち主は寄付金控除が受けられる、というものです。「今の子どもたちは、古いものに出会う機会が減っています。それが残念です。私たちは、長い時間が経過したものと“共に生きていく”という感覚を取り戻していかなればいけない、と思っています。例えば、何十年も経って(こけ)が生えたコンクリートの壁を見て“汚くなったから取り壊して新しくしなくては”という視点ではなく、“いい感じに古くなってるね”というポジティブな視点を大事にしていきたい。SOTOCHIKUを通して、古いものがもつ豊かな時間を新しい空間に引き継いでいくのが、我々グリッドフレームの役目です。」と代表の田中さんは語ります。

 昨年、大きな案件がいくつか流れるなど、新型コロナウイルス感染症の影響は少なからずあったそうです。「その分時間ができたので、社会を見つめ直すことができました。また、このような情勢でなければ、SOTOCHIKUについてじっくりと考え、進めていこうと決断するまでに至らなかったかもしれません。」と田中さんは振り返ります。
 また、「世界中で変化が求められていますよね。だから私は今が唯一のチャンスなんじゃないかな、と思っています。“豊かに生きる”ということをより深く考え、新しい体制を作っていくチャンスです。これを逃したら、このような機会はもう二度とないのでは。私は“コロナ禍になる前に戻りたい”とは思っていません。元の社会を豊かだとは思ってはいないからです。そういう意味では、アフターコロナの世界をポジティブに捉えている気持ちが大きいです。」と前進し続ける姿を見せてくれました。

 グリッドフレームでは、プロジェクトに関わる全スタッフが、自ら主体的に考え、楽しみながら、ものづくりを行っています。「弊社には優秀なスタッフが集まってくれているのですが、それは前提ではない。この仕事を楽しんでいて“好き”であれば絶対に優秀になれる。そういう考えを大事にしています。」
 また、「今、子どもたちが、自分が“好き”と思うものを仕事にできる社会が実現し始めているようにも思えます。その社会を確かなものにするためには、大人がある程度、道を示していかないといけない。SOTOCHIKUもその一つにしていきたいですね。」と語る田中さんは、SOTOCHIKUを通して子どもたちの明るい未来を描いています。

工藤 チェコさん(オーナー)
cafe さぶたけ
(東向島二丁目31番17号)

 「おかえり」と常連さんを温かく迎えるcafeさぶたけのオーナー工藤さん。以前この場所には、ご両親が営む洋菓子店がありました。「全部は無理だけど、プリンをはじめとする父の味を少しでも引き継ぎたい。」とcafeさぶたけをオープンして7年が経ちます。「さぶたけは父の“さぶろう”と母の“たけの”から。せっかく両親の大切なお店のあった場所を継いでいるわけですし、覚えやすい親しみのある名前がいいと思って。」
 工藤さんは、ご自身が病気を経験したこともあり、店内のトイレや入口のスロープをバリアフリー化しました。双子用のベビーカーでも入店でき、トイレには、おむつ替えのスペースも用意しています。

 自らの育児経験や、子育て支援に携わった経験から、「子どもが来たら、店内で自由に遊んでもらっています。ただし、悪いことをしたら、しっかり叱りますけどね。」とほほ笑みます。また、工藤さんは認知症サポーターとしても活動しています。「私たちの親世代がこれまで頑張ってきてくれたからこそ、今の私たちがあるので、感謝していきたいです。私の両親やここへ来るお客さんの役に立てるよう、今のうちに知識を付けておけば、会話の中で何かに気付いて、支援につなげられると思います。」
 さらには、居場所を探してやってくるお客さんもいます。「ここら辺は、昔は全然違う街でしたよ。」と工藤さんや常連さんは口をそろえて言います。「マンションが増えて人と話す機会が少なくなって、人とのつながりを求めてここへ来てくれる人もいます。」と工藤さんは地域の方に温かい視線を送ります。

 「自粛が続くと、高齢者は家にこもりがちになり、健康にもよくないのでは。」と工藤さんは懸念します。あるとき、しばらく来なくなった常連客のご家族から連絡が入りました。“高齢だから心配だけど、さぶたけなら安心できるので、少しだけ行かせてもいいか”と。「もちろん快くお迎えしました。必要だと思ってくださる方がいつでも来ることができるような場所に、と思っているので、うちは大きな看板も出してないし、SNSなどでも積極的に発信していません。いつも来てくれる常連さんが楽しんでもらえるようなお店であり続けたいです。」と工藤さんは語ります。

 新型コロナウイルス感染症の影響で、工藤さんもテイクアウトなど、新しいことに挑戦したと言います。「始めてみると、そればかりに振り回されてしまい、常連さんだけでなく自分のリズムとも合わなかったですね。その後、1か月お店をお休みしたのですが、今後のことをじっくりと考える機会になりました。自分のお店だから、やっぱり自分らしく楽しくいかなきゃいけないよね、と。これからも、いろんなことが起こると思います。ですが、その先には光がきっとあるはずだから。つまづいても笑顔を忘れずに復活したいな、と思います。」と、工藤さんはcafeさぶたけを必要としている方や地域の方への優しい(おも)いにあふれていました。

 区ホームページでは、ものづくりのまち“すみだ”の様々な企業・個店をご紹介しています。頑張る企業・個店の皆さんの姿をぜひ、ご覧ください(下のコードを読み取ることでも接続可)。

コード

このページは広報広聴担当が担当しています。