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すみだ区報(墨田区のお知らせ「すみだ」) 2025年8月11日号

[問合せ]広報広聴担当 電話:03-5608-6223

 5月31日、墨田区民が鹿沼市の上粕尾地区に訪れて植林を行う「鹿沼の森で植林体験」が開催されました。このイベントは、森林の保全・整備を通して緑や自然の大切さと森林の役割を学ぶ「森林整備体験事業」の一環として、鹿沼市内で林業を営む有限会社高見林業と鹿沼市の協力の下、毎年実施されています。イベントに参加した皆さんの様子をお伝えします。

 これから大きく育っていく苗木に向けて、参加者が思い思いのメッセージを書いていきます。



 すみだではなかなか目にすることができない自然の中を進んでいきます。当日は雨でしたが、かえって森の香りや雰囲気が引き立てられ、参加者からも感動の声が。



 自然散策もつかの間、会場に到着。プロから手ほどきを受けながら、1人1本スギの苗木を植えていきます。途中から雨が強まったものの、苗木にとってはこれからどんどん大きくなるための“恵みの雨”。参加者も、苗木の未来に(おも)いを()せて丁寧に植えていました。



 苗木を植えたら、そばにメッセージボードを立てて、一緒に記念撮影。参加者の達成感に満ちた笑顔が、これから育っていく苗木の未来を明るく照らしているようでした。



 植林体験後は、森林の役割についての講座を受講。森林が持つ多面的な機能の話を、皆さん真剣に聞いていました。



 植えた苗木が50年、100年掛けてやっと森になると聞いて、いま植林をする大切さを改めて感じました。

美しい自然の中で植林できただけでなく、林業に携わる方の話も直接聞けて、とても貴重な経験になりました。楽しかったです!

 鹿沼市は、市の面積の約7割を山林が占めており、さらにその約4分の3が、人の手でスギやヒノキが植えられ適切に管理された人工林で、栃木県内でも有数の林業地帯となっています。すみだの植林体験を受け入れる有限会社 高見林業の専務取締役、齋藤 州生さんに、鹿沼の木と森についてお聞きしました。

 「鹿沼のスギはほかの地域と比べて、木目が美しく均一で、かつ強度に優れた良質な物なんですよ。これは、鹿沼がスギの成長に適した気候なだけでなく、昔から木材に関わる職人が多くおり、木を大切に育てる文化が根付いていたこともあると思います。いま鹿沼で良質な木材が取れているのも、私たちのご先祖様が丁寧に手入れをして木を育ててくれたおかげなんです。」
 その文化は、森に対する意識の高さとなって高見林業にも引き継がれています。
 「皆さんが植林した所も含め、私たちが管理する森は全て、植林から出荷までの工程を“森林認証”のルールに則して行っています。森林認証は、森林が持つ様々な機能を守り、健全な森を次の世代に残すための取組で、高見林業はこの認証制度ができた当初に認証を受けました。小規模林業事業者としては初の認証だったんです。」

 森林認証を受けた森から採取した木材は、高い品質を持つ認証材として市場に流通していきます。鹿沼産の認証材は、新国立競技場や有明アリーナといった大型建築物の一部にも使われているんだそう。
 「最近では、大阪万博のルクセンブルクパビリオンに設置する丸太の椅子の材料に、私たちが育てた木が使われたんですよ。こういった大きなイベントで鹿沼の木を選んでもらえるのは光栄ですし、私たちの誇りにもなりますね。」

 「すみだの方が植林体験に興味を持って鹿沼の森に来てくれることは(うれ)しいですし、私たちにも良い刺激になっています。豊かな緑の中で普段できない体験を楽しみながら、森が持つ様々な役割も学んでもらって、苗木が子や孫の代に立派な森になっている未来を想像してもらえたら嬉しいですね。秋に墨田区が行う鹿沼での間伐体験も、私たちが手ほどきします。ぜひ一度鹿沼の森を肌で感じて、森や林業、そして鹿沼に愛着を持ってもらえたらありがたいです。」

 「鹿沼の森で間伐体験」は10月19日(日曜日)に開催!参加募集は後日、墨田区のお知らせ「すみだ」でご案内します。
 森林整備体験事業に関する問合せは、環境保全課緑化推進担当 電話:03-5608-6208へ

 良質な木材資源に恵まれた鹿沼市には、江戸時代の日光東照宮造営の際、全国の腕利きの職人が移り住み、その技術を伝承したといわれています。その流れをくみ、今も鹿沼市は、確かな技術を持つ木工職人が多く集まる「木工のまち」としても有名です。
 今回は、鹿沼市出身で現在も市内に工房を構える、国内の木工家具製作の第一人者、森戸 雅之さんにお話をお聞きしました。

 新鹿沼駅から車で15分ほどのところにある「森戸家具工房」。森戸さんはここで日々、木と向き合っています。
 「この工房を始めてからもう30年近くになりますね。ここでは、注文家具や、私の作品としての家具の製作を主に行っています。注文家具は、依頼主と話をしながらデザインを考え、使用する木材の選定から丸太の選別、製材などの工程も自分で行って、時間を掛けて丁寧に製作しています。木材はこの辺りで取れたものも使いますし、外国産の希少な木材を使うこともありますね。依頼主が望んでいる家具のイメージをくみ取って、それに最適な木材を選んでいます。また、作品としての家具は、主に私が好きな〝箱物"と言われるキャビネットを、自分のイメージが赴くままに自由に製作しています。」
 また、森戸さんは家具製作の傍ら、工房で木工教室を週3回開催しているそうです。
 「教室では、木工の基礎をはじめ、箱物や椅子の作り方などを教えていて、近隣の県や東京からも生徒さんが来てくれていますね。趣味で木工を楽しみたいという人から、本格的にプロをめざす人まで、老若男女様々な方が一緒に木工を楽しんで、作品を創り出す喜びをみんなで分かち合っています。」

 県外からも学びに来る人がいるという森戸さんの確かな木工技術。なんと、現在国内で活躍する木工・家具職人には、森戸さんの下で腕を磨いた人が多くいるそうです。そんな森戸さんは、どのようにして家具職人の道を歩んだのでしょうか。
 「元々は大学で油絵を学んでいたんですが、大学の先輩に木工や家具のデザイナーが多くいて、その付き合いの中でだんだん家具製作をしたい気持ちが湧いてきたんです。最初は静岡にいるスウェーデンの木工学校で学んだ方の下で西洋の技術を修行し、その後は更に技術を磨くため、木工作家ジェームズ・クレノフが教えるアメリカの木工学校へ進みました。
 ジェームズ・クレノフの下では、製作技術やデザイン論ももちろん学びましたが、何よりも学び、そして今も大切にしていることは、“木そのものが持つ美しさ”についてです。」

 「木は人間と同じで、1つとして同じものがないんですよね。その木が持つ表情。硬さ、柔らかさ、温かさ。肌で感じ、目で見る感覚。全てが木によって違うんです。その木から受けたインスピレーションをどう形にして、その結果どんな家具が出来上がるか。そのプロセスが本当に楽しいんです。そうやって作者の感情を込めて製作した家具には、やはり既製品にはない魅力がありますね。様々なイメージを湧き起こさせてくれる木には、いつも無限の可能性を感じています。」

 実は森戸さん、すみだには結構なゆかりがあるのだとか。
 「向島の長命寺には、私が製作した()()(観音像を安置するための戸棚)が納めてあるんです。この厨子に使った金具は、すみだの職人さんに作ってもらいましたよ。それから、立川にある井上刃物店という老舗の大工道具屋さんには、随分昔から通っています。いま私が使っている道具も、多くはここでそろえたものです。ですから、実はすみだには年に何回も通ってるんです。ほかにもすみだの方から注文を受けることが度々あるので、すみだのことは結構身近に感じているんですよ。」
 意外なところでもつながっている鹿沼市と墨田区。お互い職人が多く根付くまち同士、通じ合う部分があるのかもしれませんね。

工房外観。生まれ育った実家を自分の手で改築して工房にしたそうです。

工房内には大型の工作機械が並びます。

西洋のかんな(左)と日本のかんな(中央・右)。作りたい家具や木材に合わせ、日本と西洋の技術を使い分けます。

工房にある、40年前に修行中の森戸さんが作った椅子。しっかりした作りで、まだまだ現役です。

木の表情について語る森戸さん。木目の見せ方によって家具の印象は大きく変わるそう。

長命寺に納めた厨子の写真。中には象牙の観音像が納められています。

森戸さんの作品。

腐食などでできた模様も木の個性としてデザインに生かします。

装飾の細かな模様まで木目で表現する技術には驚きです。

このページは広報広聴担当が担当しています。