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更新日:2025年7月1日
取材日:2022年1月21日
スウィンギング・ロンドンをテーマにバーとファッション
イプクレスは1966~68年頃の「スウィンギング・ロンドン」と呼ばれたサブカルチャーをモチーフとしてアパレル・ブランド(イプクレス・モッド・ファイル)、BAR(イプクレス・ラウンジ)、キッチンカー(イプクレス・トラベラー)を三本柱として展開しています。 その拠点となるイプクレス・ラウンジは、向島の住宅街の一角にある小さな隠れ家的なバーです。英国ヴィクトリアンパブをイメージした空間で、人気メニューはイエルバブエナ(キューバミント)を用いた創作モヒート。 イプクレス・ラウンジの上階は、アパレル・ブランド「イプクレス・モッド・ファイル」のアトリエ。ここでカスタムオーダーシャツを中心とする受注製作を行っています。一方、クラシックミニをカスタマイズしたキッチンカーは、週末に隅田公園そよ風広場で営業中です。 日本中で、アパレル、バー、キッチンカーという組み合わせでの事業展開は極めて稀だと考えられます。こうした展開に至った経緯などを探ってみましょう。
ファッションブランド立ち合上げへの近道を模索
イプクレスを展開する阿部訓諭(さとし)さんは、都立高校時代にロンドンのモッズファッションに傾倒し、ファッションデザイナーを将来の目標としました。ファッションの専門学校卒業後、就職せずにロンドン放浪の旅に出て、さらにファッションにのめり込むことに。
帰国後、アパレルブランドの物流や販売員などを経験しながら、自分が最も好きな1966~68年ごろの「スウィンギング・ロンドン」におけるメンズ・シャツのデザインに関する研究を重ねていきます。同時に、川下の販売員からスタートし、企画やバイヤー、さらにデザイナーへとキャリアアップしていくアパレル業界の標準的なシステムよりも、もっと近道があることに気がついたのです。
ファッションデザイナーになるのに資格は必要ありません。まず「ファッションデザイナー阿部訓諭」という名刺をつくる。看板となる自分の服をつくり、それを着てクラブやイベントに遊びに行く。そのためにダンスを練習してパーティー会場でシャツを目立たせるよう踊る。いつしか知り合いが大勢でき、イベントのDJやオーガナイザー、バンド関係の人たちからシャツのオーダーが舞い込むようになったそうです。
昼は営業マン、夜はアパレル工房
阿部さんが探求するスウィンギング・ロンドンをテーマとするメンズ・シャツのユーザーは、ロックミュージシャンやDJなどステージ関係の仕事に携わる層が中心であり、しかも完全オーダーメイド生産。ファッション単独でビジネスとして成立させることは容易ではなく、そのため、阿部さんは他に安定した収入をいることを考え、一般企業の営業マンとしても活動しました。恵比寿にアトリエショップを構えつつ、昼間はネット関係の営業マンという時代が7年に及んだそうです。ショップを訪れる顧客に趣味でカクテルを提供するうちに、ドリンクづくりのテクニックも向上したと言います。アパレルにおける顧客も多くなり、満を持して向島にイクプレス・ラウンジを開店させ、イクプレス・モッド・ファイルを移転させたのが、2011年4月でした。ファッション先進地ではなく墨田区を選んだのは、スカイツリーオープンを翌年に控え、これから発展する予感を感じたからといいます。
バーとアパレルを車の両輪として順調に展開
「向島におしゃれなバーが誕生」と好評で、オープン以来、お客様が途切れることなく連日繁盛を続けます。季節ごとに旬のフルーツを用いた創作モヒートを中心に、英国パブフードとともに人気。一方、イプクレス・モッド・ファイルにおいてもバーの客による注文も増えていきました。
また、この分野の洋服を専門に扱うブランドは世界でイクプレスの他には一つしかないそうで、海外の顧客からもネットを通じてオーダーが着実に増えるなど、その人気は定着していきました。
イプクレスのこだわり
メンズシャツ
66~68年のロンドンで流行ったシャツがベストと考える阿部さんがたどり着いたシャツは、襟の形がラビットカラーで14cmあることが大きな特徴。鮮やかな色調、デザインの生地で個性を演出します。
創作モヒート
概念を壊す創作モヒートは、ラムの代わりにブランデーやエルダーフラワー、マスカットのリキュールなどを用いることも。ミントにもこだわり、イエルバブエナは、千葉県内の農園から直接仕入れています。
フードメニュー
ドリンクだけではなくフードメニューも充実。英国パブの定番、フィッシュ&チップス、手羽先の中に餃子を詰めて揚げた手羽先餃子、生姜焼きをご飯の上に乗せたポークジンジャーライスなど、お酒のつまみはもちろん、しっかり食べることもできます。
危機を逆手に、ファッションマスク&キッチンカー
そんな中で直面したのが、コロナ禍だったのです。2020年3月、イプクレス・ラウンジは長い休業に入りました。 「自分は逆境に強い。何でも前向きに捉える」という阿部さんは、店を休業すると、これまでのシャツづくりでストックしておいた大量の端切れ生地を用いて、ファッション・マスクを製作することとしました。これをSNSで紹介すると大きな反響で、「まさにバズった」と振り返る阿部さん。1枚1,000円でネット通販を開始したところ、新聞やテレビでも紹介され、あっという間に2,000枚を販売。1枚に付きドリンクチケットを1枚付け、営業再開後にはバーで利用できるようにしました。 この売上を投入して、製作したのがキッチンカーです。それも普通に作ったのでは面白くないというので、1966年式のモーリス・ミニ・トラベラーを購入し、それを自らカスタマイズして隅田公園そよ風広場でモヒートなどドリンクを販売するようになりました。この試みは「世界最小のキッチンカー」と話題を集め、今では常連も多くいるそうです。 「ピンチはチャンス。まずはアクションを起こすのが自分の信条」
レディースの展開もスタート
コロナ禍の収束は不透明ですが、阿部さんは既に次の展開を考えています。 まず、2台目のキッチンカーを製作する予定です。ビートルズがデビュー当時、バンドワゴンとして利用したルーツ社のカマーという商用バンを既に購入、デビューも近い。 また、イクプレス・モッド・ファイルでは、これまでメンズシャツをメインに製作してきましたが、レディースラインの展開をスタートします。イプクレス・ラウンジの女性スタッフが制服として着用するドレスは阿部さんがデザインしたものですが、これからは一般オーダーも受けることとしました。 バー、ファッションブランド、キッチンカーという展開の今後が、ますます楽しみになりそうです。
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企業情報
住所 | 墨田区向島一丁目11番11号 |
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電話番号 | 03-5608-9411 |
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