ページID:712923559
更新日:2025年7月1日
魅惑のアメリカンヴィンテージ文具
「THINGS ‘N’ THANKS(シングズ&サンクス)」は、ヴィンテージ文具を販売する店舗であり、同店舗内に文具バー「BUNGU BAR」を併設しています。
8畳半ほどのコンパクトな店内に所狭しと並べられた年代物の文具は、店主の島本彩子さんがアメリカで買い付け、あるいは現地のバイヤーから仕入れたものです。
店内はあたかも古き良きアメリカの小宇宙。1950年代から70年代の、現代的な価値観からは決して機能的とは言えませんが、個性的で味わい深く、愛おしい文具の世界が広がっています。中には100年以上前の文具も。ステープラー(ホチキス)、クリップ、繰り出し式ペンシル、ボールペン、鉛筆、鉛筆削り、穴開けパンチ等々。
例えば、ステープラーは一見ペンにしか見えません。「持ち運びができるようにとの発想なんだと思います。ステープラーひとつとっても歴史が長く、その過程でいろいろな面白い形が考案されてきました。」
同店では前述したような文具に加え、もう一つの主力商品群となっているのが、実に多彩なペーパー類です。古いレターヘッドや小切手、各種タグ、ミルクキャップ、スーパーのスタンプ類、納税証明書などのユーズド品。これらを購入したユーザーは、「ジャンクジャーナル」といわれるコラージュを楽しむそうです。
「アメリカのヴィンテージは、ずるいというかどこかずぼらなところ、ちょっと面倒くさいところが魅力。何十年も捨てられずに残されてきたのは、誰かが大切にしてきたから。ヴィンテージの文具や紙が好きな人は、恐らくその温もりに惹かれているんでしょうね」と島本さんは、アメリカン・ヴィンテージ文具の魅力を語っています。
競合のないヴィンテージ文具にフォーカスして開店
もともと古いモノ、特にツールに惹かれていたという島本さん。会社員時代に世界各国に出張する中で、アメリカのヴィンテージに出合い没頭していくことになります。
2018年、独立してネットショップ「THINGS ‘N’ THANKS」を開業。このときは、文房具以外にもヴィンテージのキッチンや工具なども取り扱っていました。翌2019年、自由が丘で東京都が運営するチャレンジショップで1年間、リアル店舗で店舗経営を実践。オープン時にジャンルを絞り、アメリカのヴィンテージ文具に特化しました。同じアメリカン・ヴィンテージでも人形やキッチンの店舗は類例があるものの、文房具は競合がなかったこともフォーカスの理由です。
1年が経ち、チャレンジショップから独り立ちするに当たって、島本さんが選んだ物件は墨田区押上、東京スカイツリーの直下に位置する雑居ビルの1階。2020年2月に開店する予定が、コロナ禍のため緊急事態宣言明けの同年6月にずれ込みました。場所柄もありインバウンド需要も見込んだものの、現在のところ当てが外れた格好であるが、それでも日本在住のアジア人のユーザーは多いそうです。幸いにもアメリカン・ヴィンテージ文具と文具バー併設という他にない業態も話題を呼び、SNSの口コミを中心に、雑誌などの媒体に取り上げられたことも奏功して、運営は軌道に乗りました。
「当初は吉祥寺など中央線沿線のサブカルが盛んなエリアを考えていましたが、適当な物件が見つかりませんでした。今考えると、墨田区で良かったと思います。吉祥寺では埋没していたかもしれません。」
狭く深く、顔の見える仕入れ
THINGS ‘N’ THANKSの来店客は、多くが女性で、30~50代が中心。当然ながら、モノに対する深いこだわりを持つ人たちです。
「知っていますか、いま、『文具女子』がブームなんです。」
島本さんが語るとおり、「文具女子博」が開催されるほどの活況を呈しています。そんな中にあって、アメリカン・ヴィンテージ文具は決して主流とは言えませんが、それだけに熱狂的なファンが多いようです。
クリップ、消しゴム、定規、ホチキスなど、さまざまなコレクターから、具体的なリクエストを受け、仕入れることが多いという。こうしたケースを重ねるうち、島本さんは「あの人だったら、これが好きだろうな」と考えながら、仕入れるようになったといいます。
つまり、顧客の顔の見える仕入れ。ユーザーの情熱を受け、そのジャンルが得意なバイヤーから仕入れるのです。取引するバイヤーは、現地のアンティークモールに足を運び、そこで得た情報をもとに開拓していきました。
現在は、押上の店舗のほかに、ネットショップも継続しています。さらに東急ハンズや百貨店などから依頼を受け、催事出店も行っています。「狭く深く」を貫いた結果、数多くの固定ファンの獲得につながりました。
卓越したマーケティング力とプロデュース力
飽きさせない仕掛けづくり
「インク沼クリソー」は、遊び心たっぷり、自分ならではのソーダが楽しめる仕掛けが人気を呼んでいます。既に次なる新商品も構想中です。
多彩な媒体、SNSでの広がり
SNSの口コミだけでなく、毎月のように国内外のガイドブック、雑誌、webなどで紹介されています。押上というサブカルの集積地でない立地を選んだからこそ、唯一無二の地位を確保しています。
多岐にわたるバイヤーとの人脈
顧客のリクエストに忠実に応えてきたことが、固定ファンの獲得やラインナップの拡充に結実。実現できたのは、多彩なバイヤー人脈の開拓力です。
物販とは異なる顧客層を獲得した文具バー
一方、BUNGU BARについては、見事にTHINGS ‘N’ THANKSのユーザー層とは分かれているそうです。開店前は文房具好きな人がカフェ・バータイムを過ごしながら、ゆっくりと商品を選ぶようなシチュエーションを想定していましたが、BUNGU BARのみを目的に来店する顧客も多く、うれしい誤算となりました。
現在、人気を集めているのは「インク沼クリソー」です。万年筆マニアの女性がインクにハマることを「インク沼」といい、「文具女子」の中で流行しています。そこで、インクに見立てたシロップ(10種類)でつくるクリームソーダを考案したところ、有名なインスタグラマーに取り上げられることも多く、ヒット商品となっているそうです。ランチ用には、三角定規を模した「三角ウィッチ」などの軽食もあります。
コロナ禍のため現在はアルコールの提供を休んでいますが、アメリカン・ヴィンテージ文具という狭い分野の単体店舗よりも、BUNGU BARがあることで経営的に奏功したのは間違いありません。
立地を生かしたビジネス展開を構想
「近くに借りている倉庫を店舗に改装して、来年にはオープンしたいと考えています」
コロナ禍という苦境にありながらも、着実に事業を広げようという意欲を抱く島本さん。また、今後、アメリカだけではなくヨーロッパにも仕入先を広げる構想も持っています。
コロナ禍が収束しインバウンド需要が回復すれば、ヴィンテージ文具に対する注目度はさらに上がるはず。その時こそ、スカイツリー直近という地の利がさらに生かせると島本さんは見ています。
「コロナ禍が落ち着いたら、地元商店街の人たちとつながりを持ちたい。朝市をはじめ、スカイツリーと商店街をつなぐような仕掛けができたらいいですね」
動画
企業情報
住所 | 墨田区業平一丁目21番10号 |
---|---|
WEB |
お問い合わせ
このページは産業振興課が担当しています。