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株式会社川合染工場「独自の染色技術でファッション界を支える」

ページID:520833029

更新日:2025年7月1日


取材日:2023年10月24日

社会情勢と産業構造の変化

一般的に染工場(せんこうじょう)では、糸を染める糸染め、反物(裁断されていない生地)を染める原反染め、糸や生地ではなく製品になった状態のものを染める製品染めを行います。川合染工場は、時代と周辺環境と共に染めものを変え、様々なブランドから支持を得る染工場になりました。
川合染工場は、川合創記男代表取締役社長の先代であるお父様が、墨田区立川にて戦前に創業しましたが、1945年3月10日の東京大空襲の影響で、工場は全て焼けてしまいました。その後、1951年、向島にて会社を設立しました。
川合代表取締役社長が業界に入る頃までは、国内の紡績産業(繊維によりを加えて糸にしていく産業)が盛んで景気が良かったそうです。その頃の全国の染工場は、主に糸染めを行い、染色した糸をアメリカに輸出していました。しかし、次第に繊維製品の輸出自主規制が行われるようになると、糸染めを主力事業とする染工場の多くが、大きな輸出先を失い、廃業してしまったそうです。先代は、糸染めの仕事がなくなることを予見し、事業を徐々に製品染めへとシフトし、生き残りを図ります。

高い技術力を活かすステージへ

1990年までは、糸染めと製品染めを並行して行っており、東京と長野を含めて3つの工場を経営していました。社会現象にもなったF1ブームの最中には、レース参戦していたアパレルメーカーのセーターの製品染めを全て任されていたそうです。
F1ブームの終焉とともにそのメーカーの仕事がなくなって以降は、糸染めは止め、現在の向島工場のみとなりました。最盛期には130名いた従業員も、現在は17名まで減り、平均年齢は60歳超の経験豊富なベテラン揃いとなってしまいました。会社の激動をみてきた川合代表取締役社長は、「大量生産の仕事は経営リスクが高い」と熟考します。「景気が良くない時は仕事を取ろうと思うと工賃が下がる。それではどうしようもない」と少しずつ売上を積み上げる方向に切り替えました。そして、現在の売上は3本の柱で構成されています。
1本目は東炊き染め(以下、「東炊き」)です。生地の自然な発色とふくらみ感による服の着やすさを目指して、江戸時代に使われていた釜入れ技法を、現代風に再現した染色技術です。2本目はアパレルブランドからの依頼です。他の染工場では対応出来なかった染めを出来たことと、取引のあったアパレルブランドの担当者と一緒に工場に出入りしていた著名なデザイナーが、自ら持ち込んだ私服を使って試行錯誤していた染めが、デザイナーの界隈で噂になったことをきっかけに、その他のデザイナー、アパレルブランドとの繋がりが生まれました。3本目は前掛けの原反染めです。均一に染めることが困難な厚い生地を染めるだけでなく、独特の柔らかさを出すことをも実現しています。愛知県に工場を有する企業から依頼を受けていることからも、他では出来ない技術であるとうかがい知ることが出来ます。

 小さな釜で東炊きを染めている様子の写真
小さな釜で東炊きを染めている様子

川合染工場の三本の柱

東炊き

染めの工程で生地の風合いをコントロールし、着やすさを生み出す。今では110以上の風合いの違いを生み出し、これらは全て小松和テキスタイル株式会社(中央区日本橋)から卸している。

アパレルブランドからの信頼

三宅一生氏が始めた「A-POC(えいぽっく)」やMDS(ミヤケデザインスタジオ)が共同開発する「IM MEN(あいむめん)」をはじめとするブランドなどで使用される反物や製品を染色している。そのほか、アメリカのブランド「Thom Browne(とむぶらうん)」からの指名など、アパレルブランドからの信頼は高い。

前掛け専門店「エニシング」の反物

腰を締めることで腰への負担を軽減すると言われ、衣類を守り、デザイン次第で宣伝も出来る前掛けの反物を染めている。海外でも好評の前掛けを販売する「エニシング」の創業時から、染めのお付き合いは続いている。

仕入れやすさまでも考えられた「東炊き」

通常、生地の原反は1ロット1,000メートルや10,000メートルの単位で染めます(原反染め)。その後、反物は卸業者を経由して販売されますが、その際の最低購入ロットは、100メートル単位です。個人や小規模なブランドが、100メートル単位の反物を購入した場合、作る洋服の数を多くしなければいけなかったり、生地が余ってしまったりして、余剰在庫を抱えるリスクが高くなるため、洋服の製造・販売の参入ハードルは高くなります。一方、東炊きは、手間も時間も掛かるため、100メートル単位の原反でしか染めることが出来ません。そのため、東炊きの反物の場合は、25メートル単位で卸業者に引き渡されており、一般的な反物よりも短尺で販売されます。25メートルの反物からは、10着程度の洋服を作れるそうです。川合代表取締役社長によると、本当に洋服を作ることが好きな個人や小規模なブランドでも反物を購入できるように、あえて25メートルの長さに設定したそうです。
東炊きは小さな釜で染色するため、生地が他の生地や釜とぶつかることで、柔らかく、ふっくらとした生地に仕上がる特徴がある一方で、色落ち・色ムラ・シワが出やすくなります。しかし、品質管理の観点から、色落ち等が起こることを望まない発注元もある中、この技法を用いた生地で仕上げられた洋服は、着心地がとても良く、着続けるほどに味わい深くなることを好評価して、東炊きを希望してくれる方々がいると、川合代表取締役社長は嬉しそうに語ってくれました。実際に東炊きへのクレームは無く、リピーターの方も非常に多いそうです。一般的に染めものの納期は1週間から10日程度ですが、東炊きは2~3ヶ月の納期を要します。こうした長納期品にも関わらず、製品受注に空きが出ることが無いほど人気を博しているそうです。

撥水加工された製品も知恵と発想力で染色可能に

文系大学卒業後、川合代表取締役社長は、日本の織染学校で基礎を学び、さらに、ドイツのバイエル社や三菱化成社(現三菱ケミカル社)にて学びを深めていきました。しかし、技術者としてではなく、後継者として経営を担う予定でしたので、染色の技術を学ぶことは大変だったそうです。「今思うと、文系から転向して得た学びは、結局は中途半端だった」と言います。当時、国立大学の織染や応用科学出身の理系従業員がいましたが、理論的に難しいとわかっていることへの取組みには消極的でした。「自分の知識は中途半端だったから、違う視点で発想して、頭で考えるよりも、まずは実践してみて、失敗から学びながら、現場の職人と一緒に作り上げていった」と川合代表取締役社長は振り返ります。一見難しそうな相談でも、果敢に挑戦し続けたことで、数々の新しい染色技術を生みだしてきました。
その発想力は、産業廃棄物の再利用でも発揮されています。川合代表取締役社長は「ものづくりに関わるものとして、廃棄物をどのように減らすかという意識がある」と意欲的に取り組んでいます。例えば、使用済みのエアバッグの染めです。撥水加工されているものを水で染めるという、相反するように思える取組みに何十回もチャレンジし、色ムラなく均一に染めることに成功しました。他にも、ヨットの帆をバッグに再利用する際の染色に携わるなど、他の染工場では門前払いされる、染色方法が未確立のことに関する相談が、今なお、川合代表取締役社長のもとに舞い込み続けています。

「出来ない」と言わない

デザイナーの三宅一生氏との長年の仕事を通して、「三宅一生イズムが乗り移った」と川合代表取締役社長は語ります。それは可能性を追求して、100%やりきったのかと自分に問いかけ、諦めずに追求する姿勢だそうです。その精神に応えるために、どんなに難しそうな仕事でも、川合代表取締役社長は、最初から「出来ない」とは言いません。「やっているうちにできちゃう。だから話が合う」と簡単に川合社長は話しますが、三宅一生氏をはじめとするデザイナーとの間には、お互いへのリスペクトがあるからこそ、難しい仕事でも持ち込まれてきたのでしょう。「ものづくりは信頼関係が大切。そして仕事は楽しくが一番」と笑顔で語ってくれました。

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企業情報

住所墨田区向島四丁目24番8号
電話番号03-3623-6176
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