ページID:230004954
更新日:2025年7月1日
取材日:令和5年10月11日
時代の変化を読み、素材と技術を革新
クロコの革をバフがけしている様子。コットンによる摩擦で自然なツヤを出す「マット仕上げ」ならではの工程。
藤豊工業所は、エキゾチックレザー(爬虫類を中心とした希少価値の高い動物から採れた革)の中でも、クロコダイルレザー(以下、「クロコ」)に特化したタンナー(なめし革業者)です。 1950年に創業し、当時の高級印鑑ケースに使用するリザードレザー(トカゲ革)のなめし・染色を行っていましたが、代表取締役の藤城隆一さんは時代の流れを読み、同じ爬虫類の中でも扱いがもっとも難しいとされるクロコのエキスパートになる決断を下します。
当時のクロコといえば、メノウ(鉱物)で磨くことで宝石のように輝くグレージング仕上げが主流で、フォーマルな用途としてのバッグやベルトなどの素材でした。しかし、クロコは非常に堅牢性が高く、「日常的に使い込んでこそ真価が発揮されるはず」と考えていた藤城代表取締役は、ヨーロッパから技術者を招き、クロコのグレージング仕上げ全盛期に、当時のヨーロッパで最先端であったクロコの「マット仕上げ」の技術を習得しました。
高い技術力を活かすステージへ
専務取締役の藤城耕一さん
2005年には、ご子息の藤城耕一さん(現専務取締役)が入社します。藤城専務取締役は入社後の早い時期から、まずは自社の革の品質レベルを正確に見極めるため、イタリア・ミラノで年に2回開催される世界最大級の皮革見本市リネアペッレ(国際皮革製品見本市)や香港のAPLF(香港見本市 素材展)など、世界的な皮革の展示会を視察しました。そこで得られたことは、これまで培ってきた技術力への更なる自信でした。実は同社は、とあるビッグメゾンの自社なめし工場と技術の源流が同じため、世界レベルの技術力があって不思議はないのですが、藤城専務取締役は自社の技術力を客観的にジャッジすることからスタート。それから次のステップへと進みました。それは内製率を100%に引き上げることです。少しずつ設備を導入し、遂に2021年の春に完全内製化を果たしました。
こうして体制は整ったものの、例外なくコロナ禍の影響に見舞われました。そのような逆境の中でも出来ることをやっていこうと、長年の夢であった小売に本格的に挑戦。売り物は、自社のタンナーで製造した革を使って自社の製品部でバッグや小物を仕立てるファクトリーブランドです。千葉、名古屋、大阪、神戸、新潟等、地方の百貨店やセレクトショップに卸し、都内はポップアップをメインにフルラインアップを展開。藤城専務取締役自身が時間の許す限り店頭に立つようにつとめ、接客を通じて、様々なニーズを汲み取っていきました。
クロコをもっと身近に感じてもらいたい
世界一の品質を目指す
染色前の白い状態を生かした「ベーシックホワイト」。
高い技術を持ったタンナーだからこそ生み出せる無染色の「ベーシックホワイト」。この白い状態の品質が染色後の美しさのベースとなります。
作る人にもクロコを身近に
家具ブランド「pat woodworking」の座面にクロコのヌメ革をあしらったオーダースツール。
自社で製造した革を自社で製品化出来る藤豊工業所は、まさにクロコのスペシャリスト。クロコを扱ったことがないブランドにも頼もしい存在。
まずはクロコを使ってみて欲しい
藤城専務取締役自身が7年以上使い込んだ名刺入れ(左)と、新品のミニウォレット(右)
クロコを購入したことがない方向けに、「マイ ファースト クロコ」というコンセプトで、手に取りやすい価格設定を行った商品。日常づかいの中で、クロコの堅牢性やエイジングの美しさ(経年変化)を体験してもらうことを狙っています。
素材の良さを活かす技術
植物タンニンでなめしたクロコのヌメのバッグ。着色や染色を施さないすっぴん状態での美しさが品質を示します。
動物の種類が変わっても、皮のなめしの工程の種類は変わりませんが、クロコの場合、皮の繊維の密度が非常に高いので、薬品や染料を浸透させるまでに独特のレシピが存在し、「皮」が「革」になるまで、なんと3ヶ月もの長い時間を要します。しかし、手間を惜しまず正確になめした分だけ、大切に使えばそれこそ何十年ももつ品質と、持つ人を幸せにする美しさをたたえた革になります。「生皮の品質。皮をなめす技術、そして縫製。この3つのポイントを高いレベルで揃えることで、お客様が経年変化を楽しみながら、長く愛着を持って使っていただける製品づくりが出来ています」と藤城専務取締役は話してくれました。特に、生皮の品質は、染色後の色の深みや発色の美しさに直結するため、原産国である東南アジアに藤城専務取締役自らが出向いて、目利きをした皮を選んで輸入しています。2002年にはクロコのヌメ革を世界に先駆けて完成させましたが、状態のいい皮を使うことで、その品質も格段に向上したそうです。ヌメ革とは、植物性のタンニン(渋み成分)でなめした革のことで、きめ細やかで滑らかな手触りも特徴です。牛や豚の革では伝統的な技法ですが、クロコに置き換えたことで、まさに「新しいクロコ」という表現がしっくりくるような、これまでにない風合いが生まれました。
積極的なコラボレーション
アート加工の一種、艶消し仕上げ「EXマット」の鞄
「FUJITOYO」はタンナーの名前を前面に出したファクトリーブランド。複雑なデザインや目新しいデザインよりも、クロコという革の機能性や特性が生かされるシンプルなデザインにこだわっています。さらに革を製造するタンナーだから実現できた企画として様々なジャンルとのコラボにも積極的に取り組まれています。例えば、イギリスのオートバイ、トライアンフの外装に革を貼り込むプロジェクトや、ビスポークシューズ(オーダーメイドの革靴)ブランドとのコラボ、木組みのスツールの座面づくりなど、数多くの実績があります。
また、これらを実現する「FUJITOYO」は、その技術開発力を、既成概念に囚われないアート加工にも惜しみなく投入し、クロコの新しい表情や価値を引き出し続けています。
自分たちだけのビジネスであってはならない
どの国のどの養殖場のクロコで、いつ、どの国に輸出されたかを示すタグ
クロコは贅沢品の象徴、SDGsの理念とはまるで対照的な存在のように語られがちですが、まずクロコダイルはワシントン条約で厳重に保護され、トレーサビリティ(どの国のどの養殖場のクロコで、いつ、どの国に輸出されたか分かるように情報が記録・保管されている状態)が厳格に確保されています。また、クロコダイルは、皮だけでなく、肉や血までも余すところなく利用され、原産国の雇用にも貢献しています。
「クロコダイルの養殖業界および私たちが属する産業が衰退したら、クロコダイルはむしろ絶滅に近づくとされていることからも、自分たちだけのビジネスではないことを肝に銘じています。クロコの美しさと風格を少しでも多く引き出し、1年でも、1日でも長く、美しい状態が保たれる革にするのが、生き物の命を素材に変えるタンナーの使命であり、そのことだけを考えて技術を磨き続けていると言っても過言ではありません」と藤城専務取締役は仰っていました。品質向上への並々ならぬ熱意は、親子の間でしっかりと受け継がれ、進化しているのです。
動画
お問い合わせ
このページは産業振興課が担当しています。