「寺島なす」の復活、たもんじ交流農園の創設など、寺島・玉ノ井まちづくり協議会(以下「てらたま」)は、前身の「まちおこし委員会」の発足から約10年にわたり、さまざまな取組を実施してきている。
今回は、墨田区にも昔飛び交っていた「蛍」を復活させようと立ち上がり、「すみだの夢応援助成事業」(ふるさと納税を活用したガバメントクラウドファンディング)で資金を集め、ついに実現させた「てらたま」理事長の牛久光次さんと副理事長の小川剛さんに挑戦の趣旨や今後の方向性について伺った。(2023年8月取材)
夢のある取組を楽しく行うことで、「てらたま」には、多くの人が集まり、たくさんのつながりが生まれている。
(左)牛久光次 さん (右)小川剛さん
たもんじ交流農園の正面入口
大人も子どもも、キャッキャと大喜び!ついに蛍が飛び交う
―――なぜ、たもんじ交流農園を「蛍の名所にしよう」と思ったんですか? ■牛久:農園の中にあるビオトープの水が淀んでいたので、何とか水質を良くしたいと考えていました。その際、この機会に昔観ることができた蛍を蘇らせたいという希望がメンバーからあがりました。だったらそれを目指して、「どうせきれいにするなら、蛍が生息できるくらいの水質にする目標・旗印がある方が、分かり易いしやりがいがあるからいいね」という意見が出てきたんです。 |
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リニューアルする前のビオトープ
―――すぐに、蛍の育成を始めたのですか? ■小川:まず、2021年には蛍の生態系を学ぶことからスタートしました。子どものいるご家庭を中心に、自宅で幼虫を育ててもらう活動を始めました。当初は、11世帯の家族の方が、参加協力をしてくれました。我々も全く初めての取組でしたので、てらたまメンバーの中からも4人が一緒に参加しました。 具体的にどうすれば良いのか先が見えていなかったのですが、幸いにも「蛍名人と呼ばれている」生態に詳しい方を紹介いただくことができました。この方と育てたことのあるメンバーを講師に、蛍の幼虫の餌となるタニシの与え方、水替えの方法、様々な留意点などの講習会から始め、家庭の水槽で育ててもらいました。 育てるプロセスで、餌の供給や育て方などいろんな悩み事もでてきましたので、LINEグループを立ち上げて共有しながら対応していきました。 |
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蛍育成講習会を受けている様子
―――うまく育てられましたか? ■小川:いろいろ大変だったのですが、LINEで情報共有をしながら一緒に育成することで、困り事にも対応できたようです。夏から翌春にかけて幼虫を育ててもらい、その後ビオトープのゲージ内に移し、羽化までケアを続けました。 なんとついに、2022年の6月に3匹の「すみだ生まれの蛍」が羽化してくれたんですよ。 ―――幼虫育成に携わったご家庭の皆さんも喜ばれたでしょうね。 ■牛久:皆さんが、いろんなことに悩みながら初めて育てたということで、蛍に親近感を持ってもらえたのではないかと思います。また、「見た目がそんなに良くない幼虫が、成虫となり、きれいな光を放つ素敵な存在になる」っていう変化も子どもたちの心に響くものがあったようですね。そのようなプロセスを経たからこそ、その翌年に開催したビオトープ改修のキックオフミーティングやかいぼりの実施、ホタル観賞会などにも積極的に参加いただけたんだなと思います。 ―――いよいよ、ビオトープの整備に取り組むことになったのですね。 ■牛久:「かいぼり」を実施してビオトープの拡張をし、水質と水量を維持し続ける必要があります。そのために、井戸を掘り、水車やポンプを使って井戸水や雨水が池に循環できるようにと考えました。さらに、幼虫を外敵から守るとともに、羽化後に飛び去ってしまわないような保護ゲージの設置や幼虫が上陸できる場所も必要です。 ―――整備には、費用も掛かりますね。 ■牛久:これらの整備にかなりの費用が掛かりますので、「すみだの夢応援助成事業」を活用しようと考えました。幸い、採択されましたが、当初はなかなか寄付金が集まらずに心配もしました。締め切り間際の年末ぎりぎりまで、SNSでいろんなコンテンツを何度も繰り返し発信するなど広報努力を続けたこともあり、目標額を上回る寄付をいただくことができ、ほっとしました。 |
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ビオトープ循環のラフ図
ほたるのすみかの完成
―――その後は、イベントが目白押しでしたね。 ■小川:3月5日(日)に、武蔵野大学の橋本淳司客員教授にご指導いただき、「かいぼり」を実施し、18名の方々が参加しました。生き物を保護したうえで、池の中の石やゴミを外に出し、水抜きと清掃をして、また新しい水を引き込み、生き物を戻し、ビオトープをきれいに蘇らせることができました。メダカ、ヌマエビ、ヨコエビなど6種類くらいの生き物が生息していました。 4月9日(日)には、区長、墨田区観光協会 理事長などをお招きして、「ほたるのすみかお披露目&感謝祭&お花見」を開催しました。これまで応援していただいた皆さん、共に携わってくれた方々とともに、リニューアルしたビオトープ、蛍を育てる仕組などを紹介しつつ、農園の窯で焼いたピザ、農園の野菜入りのやきそばなど心づくしの料理でおもてなしをさせていただき、130人近い方々と親交を深めることができました。 ―――そして、ついに蛍が羽化しましたね。 ■牛久:リニューアルしたビオトープに幼虫を移し、餌をやり、鳥などの外敵から守り、注意深く面倒を見続けること約2ケ月。ついに、墨田区生まれの蛍が羽化し、成虫にまで育ってくれました。そして、6月17日(土)には、念願の第一回ホタル観賞会を実施することができました。その後も、蛍鑑賞会や蛍についてのイベントを重ね大人も子どももキャッキャと大喜びの「蛍の飛び交うたもんじ交流農園の初夏」を実現することができました。 |
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かいぼりの様子(1)
かいぼりの様子(2)
ビオトープのお披露目パーティー
ホタル観賞会
―――「てらたま」は、どういうきっかけで活動を始めたのですか。 ■牛久:自分たちの住む地域を、そしてすみだを「笑顔あふれる元気な街にしたい!」という思いが、活動の始まりです。そのためには、「地域がつながれる場」が必要だと考えました。そんな思いを実現するために、前身の「まちおこし委員会」から2013年に「てらたま」に改組し、現在の活動の基盤へとつながってきました。 「寺島なす復活プロジェクト」の活動は、まちおこし委員会時代の2010年に東向島駅前通りのプランターに寺島なすを栽培し、通行人に興味を持ってもらうことからスタートしました。その前年には、生産者である三鷹市の星野さんの指導と江戸東京伝統野菜の専門家大竹さんの協力によって第一寺島小学校の創立130周年記念事業として校内栽培が始まり、その後、地域のご家庭や駅など様々な場所でのプランター栽培へと広がっていったんです。 ―――そんな活動が、たもんじ交流農園の創設につながってくるのですね。 ■小川:農園で寺島なすを栽培したいという想いをもって農地を探していたところ、多聞寺のご住職より、無償で駐車場跡地200坪をご提供いただけることになりました。てらたまメンバーを中心に、大勢のボランティアが雑草を抜き土を運んで耕作地をつくり上げました。 耕作地の内、4区画(パンフレットでは、2区画)はてらたまが使用、寺島なすの栽培や子どもたちの農作業体験にも活用しています。他の20区画(パンフレットでは、10区画)では、個人やグループが様々な野菜をつくっています。耕作地の他、芝生広場、ビオトープ、ウッドデッキ、花壇、ピザ焼き窯、雨水活用設備などもあります。 |
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2017年開墾前の現地風景
現在の農園全景
―――「地域がつながれる場」づくりとして、イベントも展開してきていますね。 ■牛久:廃校になった旧向島中学校を拠点に皆が楽しく参加できるイベントをやろうということになり、2016年には墨田区が取組んでいた地域アートフェスティバル「隅田川 森羅万象 墨に夢」(以下、「すみゆめ」)に応募し、採択されました。 「江戸に浸かる。」というタイトルで、「江戸」をテーマにして、遊び・歌い・踊り・食べ・学び・・・皆が楽しめる出し物であれば、なんでも取り入れるという、とても寛容なイベントにしました。メンバーの皆さん一人ひとりが、いろんなやりたいことにチャレンジできる「ゆる~い感じの場づくり」をしたので、会場づくりに始まり、ファッションショー、子ども寄席、草履飛ばし、踊りなど、2020年まで5年間毎年盛りだくさんの楽しいイベントにチャレンジし続けてきました。さらに、2022年からは、場所を隅田公園そよ風ひろばに移し、「寺島なす★祭り」として、寺島なす料理コンテスト「N-1(なすワン)グランプリ」、青果リレー、紙芝居、トークセッション、皆で踊ろう寺島茄子の介音頭、飲食&PRブースなど「江戸に浸る。」で培ったノウハウとコンテンツを活かした祭りを開催しています。 |
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「江戸に浸かる2019」報告会資料
「江戸に浸かる2019」報告会資料(イベントの様子1)
「江戸に浸かる2019」報告会資料(イベントの様子2)
「江戸に浸かる2019」報告会資料(成果報告)
第2回「寺島なす★まつり」の様子
てらたま-寺島・玉ノ井まちづくり協議会-ホームページ
(外部サイト)
江戸に浸かる~つなぐ・寄り添い・感じる~未来に夢。
(外部サイト)
―――「たもんじ交流農園便り」の発行など、情報発信にも力を入れていますね。 ■小川:「てらたま」メンバーの中に、紙面づくりやイラストの得意な方がいて、写真満載、4コマ漫画もある、カラフルで楽しい「たもんじ交流農園便り」を発行してもらっています。月一回発行を基本に、イベントに合わせて特別号が加わります。メンバーや支援者には紙面やデータでお送りしますし、農園や協力いただいている飲食店などにも置いています。また、「寺島なす★祭り」などのイベントも大切な情報発信の場だと思っています。 ■牛久:最近はSNS(Facebook、Instagram)での発信も頻度を上げてきています。特に、「蛍の名所にしようプロジェクト」については、クラウドファンディングをはじめ、たくさんの方に応援していただきましたので、ビオトープ水質改善の進捗状況や蛍鑑賞会など進捗情報の発信に努めました。 |
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たもんじ交流農園便り
寺島・玉ノ井まちづくり協議会Facebook(12月25日投稿)
―――皆さんの活動は、夢のある取組がたくさんあって、多くの方々が参加されていますね。どんな秘訣があるのでしょうか。 ■小川:いろんな興味や特技を持った人達に、やってみたいことにどんどんチャレンジしてもらってきました。「てらたま」は、こうあるべきとか、細かな決め事というようなことは、あまり前面に押し出さないで「ゆる~い、つながり」を大事にしてきています。そういった柔らかな、決して完ぺきではない組織運営こそが、たくさんの人たちが集まってくれる、長く続けてくれる力の源ではないかと思っています。 ■牛久:それともう一つの要素を上げるならば、いろんな心配事もあるけれど、「まず始めてみる」ことじゃないかと思います。旗印を掲げて、やり始めていると、いろんな人がいろんな方面から助けに参加してくれたり、アドバイスをくれます。そうこうしているうちに、曲がりなりにもできてしまう。じゃ、もっとこうしようよ。今度は、ここまでやろうよ、と積みあがってきたんですよね。 ―――夢は尽きない、ゴールはないという印象を受けました。今後の夢について、教えてください。 ■牛久:農地のない墨田区で、寺島なすの復活やたもんじ交流農園の創設などを進めてきて、さらに未来に向けて世界に誇れる「都市型農園」を実現させたいという夢、野望を温めています。墨田区の北部エリアは、江戸の昔、将軍家に献上する古来種の野菜の栽培地だった「御前栽畑」があったところです。その同じ場所だからこそ日本独自の価値を生み出せ、発信することができるんです。都会の暮らしの中に農体験ができる場所があることの意義や効果が高いのではないかと思っています。 また農園は、単に野菜を作る場だけにとどまらず、温暖化による気候変動、環境保全の施策、子どもたちへの土・植物・昆虫に触れる場や障害を持つ人たちの活躍の機会の提供など、多面的な意義のある「場」とすることができます。とは言え、区内には適切な土地が少ないという悩みがあります。様々な遊休地、空き家の跡地、河岸や公園内などの活用を模索していきたいと思っています。 |
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